気持ちの良い秋の空だった。
合宿日和。
太鼓を叩くのは地下音楽室なんだけれど、それでもやはり気持ちも晴れる。
初日。
午後の部は、皆で最初はゆっくりと体の様子を見ながら叩き、
そして徐々にガンガンにと叩きまくる。
基本の動作、単純なリズムを繰り返し、また少し頭の体操になるような遊びも入れながら叩く。
普段トラックの中に入ったままでカバーに包まれている大太鼓を、
カバーから出して空気に触れさせると、皮がやっと呼吸を始める。
だから最初はどうしても固い音だ。
それを少しずつほぐして叩いていくと、自分の体も同じようにほぐれていく。
皮がしっかりと呼吸をして音が馴染んで来る頃、こちらの体も場の空気と音に馴染んでくる。
夜の部は打ち込みの後、大太鼓ソロについてレクチャーをした。
一人ずつに僕がテーマを出して叩いてもらう。
これはちょっと初心者の人には無理なので、長い人だけ。
例えば、秋の虫、鈴虫コオロギの虫の音が聞こえる秋を、Tさんのテーマに出すと、
彼の自宅庭で繰り広げられる秋の虫達の声が聞こえてきた。
最初それは小さな声だったが、囁きが競演へと広がっていく。
すると聞いている僕もその中の虫の一匹となり、庭の中で声を上げていた。
そして最後はまた、夜のしじまへと消えていった。
Jさんには、月光、秋の月、をテーマに出してみると、
彼女に何があったのか、電気も付けずに自宅に戻った夜、
畳の上で一条の光が彼女の帰りを待っていた。
その光りに誘われるように窓を開けてみれば、鮮やかに満ちた月がその空に見える。
輝きが彼女の頬を濡らす涙を映そうとした時、薄い雲がゆっくりとやってきて、
月光を曇らせた。
そのような風景が、彼らが叩く太鼓から聴こえ見えてきた。
構え方や叩き方や、大きい音や小さい音をキチンと出すことも大事だ。
でもそれだけではダメだ、心が宿っていないと何も伝わらない。
逆に言えば、叩き方が滅茶苦茶で、リズムも喩えバラツイたとしても、
必死で何かを考えた時、また考えようとした時、何かを表現したいと思った時、
聞く人たちを別の世界に連れて行く力を持つことがある。
大太鼓って叩くのも、聴くのも楽しい。
二日目は、参加メンバーほぼ総入れ替わり、新曲を叩いた。
とは言ってもこの曲はまだ完成していない。
皆さんと一緒に、皆さんに叩いてもらって、段々とその姿が浮き彫りになり、
形を創っていくことになるんだけれども、
まだ今回は一回目の稽古なので、まっさらなところから第一歩を踏み出したと言える。
この新曲は、先にタイトルを決めた。
僕の作曲あるあるの一つ。
最近気になった言葉があって、その言葉を使いたいと思ったからだ。
そこに最近見た映画の主人公がやって来て、男女二人の会話が始まった。
それが、レイチェルとニック。
映画のタイトルは、『クレイジー・リッチ!』
この映画にものすごく感動したわけではなかったのに、
僕が頭の中で太鼓曲の構想を練っていた時に、この二人が突然にやって来て、
会話が始まったというわけ。
二人の、穏やかで時に賑やかな話を聞いているのは心地良い。
出会いからプロポーズまでのシーンを振り返ったところで、曲の大枠が出来た、と思う。
ちなみに僕の新曲とこの映画の内容は、まったく関係がありません。
ただこの二人がやって、僕の想像の扉を開いただけの話。
こうやって作られた曲のテーマやオカズを、あれこれと合宿で叩いてみると、実際の太鼓曲の姿が現れ、音へと変わっていく。
大太鼓の音に包まれると、頭の中だけで考えた音や、小さい太鼓の音とはまるで違う空気が流れ出す。
誰がどの太鼓をどのように叩いていたかでも、音がまるで違って聞こえる。
そして、
このリズムを何度も叩いていると、大太鼓の音が、これから先の行くべき場所へと導いてくれる。
その場を作る仲間たちが、新しい曲の産声を上げさせてくれるのだ。
女と男が出会い、色々な事と遭遇して、最後に行き着く場所が、
『Belle Île』。
日本語ではベルイル、ベリールと書く、フランス語で「美しい島」という意味。
これが、この曲のタイトル。
二日目の稽古では一枚の写真を撮る間もなく、休憩も少しで、ずっとアレコレと集中して一日叩いていた。
いや、一枚だけ撮ったのはあった(特に意味はありませんが、偶然)。
それがコレ。
楽しい二日間が過ぎました。
次回の大太鼓合宿は、12月8-9日(土・日)。
あなたもレイチェルとニックに会いに来ませんか?(あくまでも想像の世界ですが)
一日目は、いつもの基本打ち込みのみ、歳末叩き合い。
二日目が、ベリール(Belle Île)を叩きます。
今年最後の大太鼓合宿、参加者募集中!