2019年5月1日水曜日

神田松之丞を聞く〜令和の夜明け

令和元年となった。




雨かと思えば、薄日が射すやわらかな朝だ。

TVは、朝から新天皇即位式に向かう徳仁(なるひと)親王の動きを追っている。







僕はずっと前から楽しみにしていた神田連雀亭(れんじゃくてい)へと向かう。
https://ameblo.jp/renjaku-tei/entry-12450059355.html



駅でも即位を祝っていた。












開演は夜6時だけれど、今日連雀亭に僕が着いたのは午後2時20分。

その時は、まだ道路に人が一人出ているだけ。







ああこれなら昼ご飯を食べに行っても大丈夫かなと、一旦列を離れた途端、
二人が列に加わったので何となく嫌な予感もして、

もうポカリを自販機で買っただけで僕も列に加わった。










何の為にここに並んでいるのか?

それはここでの夜の会に講談師・神田松之丞さんが出演するからだ。

連雀亭は当日券しか出さない小屋で、しかしだからこそこうやって前売りチケットを手に入れられない僕のようなファンでも、見るチャンスが与えられている。









そうやって待っていると、どんどんと人が僕の後ろに並びだした。

まだ開演3時間前にもなっていない。
小雨も降って来たので、建物の庇に身を寄せる。





この小屋はキャパが38席なんだけれど、昨年末僕が初めてここに初めて来た時は、開演2時間前に来て並んでも入れた。

ところが‥‥‥



今日は実は朝10時建物の開館時にすでに夜の会のチケットを求めて並んでいる人たちがいて、整理券をやむなく出したというのだ。
その数、17枚。

それを僕たちは知らなかった。





僕は充分大丈夫だろうと隣の若い通人と、これから長い待ち時間になるであろう時に備えて松之丞談議に花を咲かせようとしていたその時、

若いスタッフ(この方も出演者の落語家さんだけれど)が降りて来て、事情を並んでいる人たちに伝えた。
そして整理券を配り出した。



すると、僕が最後の38番だった。











隣に並んだ若い通人は名残惜しそうに、でもすっぱりと観るのを諦めて帰っていく。
時間はまだ午後3時だけれど、小雨が降って来た。





見ようとしているのは、この興行。







これから開場の5時半までどうしようかと思ったら、何となく僕と同じようにヒマそうな方がいて声をかけた。



その人がスタッフ(若い落語家さん)と話していて、けっこうここに詳しい方のように見えたので、
「ちょっと話を聞かせてもらってもいいでしょうか?」
と声を掛けた。

すると快く、じゃ一緒に時間を潰しましょうかとなった。





その方は自分でオニギリと缶ビールを持参していて、僕は近くのコンビニで弁当を買い、近くにあったビルのオープンテラスに腰を落ち着けた。




この方は2年前から松之丞さんを追っかけている人で、僕の知らない講談話を色々と聞かせてもらい、瞬く間に二時間が過ぎていく。

もちろんラジオのことも全部知っているので、お互いにその内容で盛り上がる。
いかに松之丞さんが素晴らしいかと二人で確かめ合っているという、外から見れば気持ち悪い二人に見えただろう。



時間になって二人は腰を上げ、そろそろ小屋に戻りましょうとなった時、
その人は、そう言えば僕も淡路島に行ったことがあるんですよ、と言った。

父方の祖母が淡路島の五色生まれの人で、五色浜に小さい頃遊びに行っていたというのだ。
それではあなたの体の四分の一は淡路人ではないですかと、生粋の淡路人の僕は喜んだ。



そんなご縁もあって、本降りとなった雨の中、連雀亭に戻る。





そうすれば、玄関にこの張り紙が貼ってあるのに、






まだ何も知らずに並ぶ人たちがいた。

事情を知った後も、せっかくだから開演開演まで待つという。

最終的に今夜は、他に多くの人にお断りを入れ帰ってもらっていることもあり、
立見もなしで最後まで待っても一人も追加で入れることはなく、開演となった。



松之丞さんの前に、落語家さんの噺、三本があったのだけれど…………、


つまらない。

半分くらいは寝ていたかもしれない。


芸とは残酷なものだ。





そうして最後に出て来た、松之丞。

「待ってました!」

「伯山(はくざん)!」

「六代!」

と次々に声が掛かる。声を出しているのは全部僕だけれど。
他にものすごい38人全力の拍手に迎えられて、松之丞さんは登場した。





いや〜、鮮やか!


腹の底から笑った。

ずっと笑っていた。

楽しかった。。。面白かった。。。



まくらも含めて20分くらいだったろうか?

もっと聞きたかったけれど、仕方がない。









この時間の為に僕は昼から来ていた。


半分くらいの人は朝から来ていたんだから、みな相当のファンに違いない。








それにしても、この沸騰ぶり。



人気が出る、というのはこういう波になるんだろう。

年末の会では松之丞さんが開場時に受付に立ってチケット代を集めていたし、終わった後も狭いロビーに出て来てお客さんらと話していたし、僕も見送られて帰った。


しかし、今日は開演しても自分の出番ギリギリに小屋に入り、終わってもロビーに出てこなかった。
僕はせっかくなのでサインをもらいたくて、他の方(落語家さん)に言うと、その瞬間だけ松之丞さんは現れ、二、三言話してサッとサインして風のように消えた。
きっとこの後も予定が入っていたのだろう。

でも僕のために出て来てくれたので、その姿を目に焼き付けた。


勢いに触れた感じだ。



松之丞さんは、来年二月、講釈師の大名跡『六代目 神田伯山』を襲名する。









本降りの雨の中を、傘を持たない僕は地下鉄「淡路町」駅まで駆ける。



駅のベンチに座って、ゆっくりとサインを眺めた。
















家に帰ると、新天皇の挨拶映像がTVから流れていた。

一日(いちじつ)にして顔付が変わっている。
名前が変わる即位というのは、そういう力があるのだと確信した。

そしてそのお言葉の端々に、僕は共感できるものがあった。


徳仁天皇陛下、お頼みいたします。








こうして僕の令和は、神田松之丞によって打ち開けられたのだ。