和明じいさん、昇天七日後
「やっ 和明(と右手を差し出す)‥‥待ってたよ
「やめて下さいよ 待ってたなんて」
「いや〜 もうさすがの和明もそろそろじゃないかと思ってたんだよ
「まあ いずれ来なくちゃいけないとは思ってましたけど 待ってたって言われるとね〜
あれっ? ずいぶんとお元気そうですね
「うん なんかね こっちに来て若返った気がするよ
「そりゃ良かったですね
「けっこうこっちでも忙しくてね
「そうですか 何やってるんですか?
「写真のアルバムがあったろう
「えぇ えぇ えぇ 部屋の片面の壁全面アルバムの棚でしたもんね~
「前は時間が足りなくてなかなか整理できなかったんだけどね 今やっとゆっくりやってるんだよ
「ま そりゃ良かったですよね
「お前の写真も一杯あるよ
「そうでしょうね ………(と思い出したように)あ~ 生前は色々とお世話になりまして、ありがとうございます
コンサートの度に写真をたくさんお借りして ほんとに助かりました
「まそんなお礼なんていいよ お前 水臭いじゃないか
それにしても和明の写真は いつも笑ってるよな‥‥
「そうでしたか?
「そうだよ 俺なんて こいつはいつも笑っててバカじゃねえかって思ってたくらいだよ
そんな世の中 いつもへらへらと笑っていられるほど甘いもんじゃないからな‥‥
「すみません
「いや ほめてんだよ
「そうですか?………ありがとうございます
「ま 今日はゆっくりしていけよ
「いやいや すいません! 今日はそうもいかないんです
他にもいろいろとあいさつに廻らないといけないところがありまして‥‥
「そうかい? ま しょうがないな
また時間が空いたら遊びにくるんだぞ
「はい 来ます 来ます(と言って立ち去ろうとして)
「あ~ あ~(と引き止めて)この前な とっておきのいい~写真を一枚みつけたんだよ
「へぇ~なんですかね そりゃまた
「…………この写真をみたらね こう気持ちがやわらぐって言うかな〜 フォットするんだよ
「はいっ? フォット? フォト……?
どうも失礼いたしました
camera/富田行音